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2013年11月26日
2013年度の税制改正において、2015年以降の相続から相続税の基礎控除が縮小されることになり、これまで以上に相続対策が重要になる。
■相続評価額は土地を更地にしておくよりも有利
相続対策のうち、相続財産の評価額を引き下げて、支払う相続税額を下げる「財産評価対策」として土地所有者によく用いられる方法が賃貸マンションの建設だ。
土地の上に賃貸用の建物を建設し、実際に賃貸することによって、土地の相続税評価額は更地のままにしておくよりも引き下げられる。また、建設した建物についても、その相続税評価額は新築当初であっても投入された建設費と比較して大幅に低くなる。
このように、将来的な土地の相続および相続税の支払いだけを考えると、所有する土地上に賃貸マンションを建設し、賃貸経営を行ったほうがよい、ということになる。
しかし、いうまでもなく賃貸マンション経営は「経営」であり、建ててしまえば何もしなくてもうまくいくわけではない。スムーズな相続税支払いのために行った賃貸マンション経営が、空室の発生によってローン支払いのための現金持ち出しが増え、逆に相続税支払いのための財源を棄損する、といったことも起こりうる。
相続対策として賃貸マンションの建設・運営を行う場合、どのような点に留意すればいいのだろうか?今回は、青山さん(仮名)の事例を見ながら、賃貸マンションの建設・運営にあたって注意しておきたい点、慎重に検討したい点について考えてみたい。
■賃貸マンション建設による評価引き下げの具体例
青山さんは将来的な相続発生に備えて、現在月極の貸駐車場として使用している所有地に賃貸マンションを建設し、併せて家賃収入を老後資金の足しにしたいと考えている。建設会社に相談し、賃貸マンション建設・運営にあたってのプランも取り寄せ、これから具体的な計画について検討しているところだ。
青山さんの場合はご自身からの依頼だが、通常、土地所有者のもとには黙っていても建設会社やハウスメーカーなどから土地活用の提案がなされる。そして、それら土地活用の提案の中でも賃貸マンションの建設は大きな部分を占めると思われる。「土地の有効活用」の目的としては「相続税対策のため」が最も多く挙げられるだろう。
相続税や贈与税などを算出する際に基準となる価格が相続税評価額だが、建物(自用家屋)の相続税評価額は固定資産税評価額と同じだ。また、土地の相続税評価額の算定に際しては、評価方法に路線価を基準にする「路線価方式」と、固定資産税評価額に一定の倍率を掛けて計算する「倍率方式」の二つがある。市街地では主に路線価方式の評価方法が用いられ、自用地の場合、公示価格の8割程度になる。
図表1に示す通り、賃貸マンションの建設によって土地は「自用地」から「貸家建付地」となって相続税評価額が下がる。また、賃貸マンションの建設資金も、建設後、現金(借入金)から賃貸マンション(建物)となって、やはり相続税評価額は下がる。土地と建物トータルで評価額が半分近く下がる場合もあり、その上、家賃収入が入るわけだから、土地所有者の立場からすれば、これら建設会社の提案に喜んで乗りたいところではある。
■提案された収支計画を鵜呑みにしないように注意
しかし、ここは一歩引いて冷静考えたい。確かに、建設会社から提案される事業の収支計画には、毎年(毎月)、賃貸マンションの運営費用や借入金の返済を補って余りある家賃収入が計上されており、多額の借り入れをしても大丈夫そうだ。ただ、その収支計画はあくまで「計画」である。当然、その通りに家賃が入り、費用がかかっていく、というものではない。
家賃収入は、近隣の他の賃貸不動産の家賃動向によって、上げることができる場合もあれば、下げざるを得ない場合もあるし、また、賃貸マンション建築後10年、20年と経過していくと、老朽化によって当初の家賃がとれなくなる場合もある。また、老朽化が進んでいくと、予期しなかったような修繕費がかかる場合だってありうる。
もし、収支のバランスが合わなくなって借入金の返済ができないような事態となってしまうと、事業外の部分から資金を調達しなくてはならない羽目になり、土地所有者の家計に思わぬ影響を与えることとなる。
そのような事態を避けるためには、提案された事業についてその実現性を慎重に見極め、無理のない収支計画なのかどうかを判断する必要がある。青山さんも、提案を受けたプランの収支計画の妥当性を分析する必要性を理解し、それを踏まえて賃貸マンション建設を実行するか否か判断しようと考えた。
建設会社から提案されたプランの収支計画は図表2の<修正前>の通りであり、この収支計画について、青山さんが提案を受けたプランについて詳しく見ていくことにしよう。
■老朽化、空室リスクを踏まえて家賃を考える
まず確認したいのは、家賃収入の推移だ。図表2の収支計画を見ると、年間の家賃収入が1368万円で、1年目から借入金の返済が終わる30年目までずっと同じ金額が計上されている。
プランでは、1室の賃料が12万円の部屋が10室ある鉄筋コンクリート造のアパートの建築が予定されており、毎年の家賃収入は図表3の<変更前>の通り、満室時家賃収入の5%の空室損失を見込んで計上されている。空室損失とは、賃貸用不動産において、空室が発生して本来入るべきはずの家賃が得られないことによる損失のことだ。建設会社やハウスメーカーから提示される収支計画では、通常、満室時の家賃収入の一定割合が空室損失として計上されている。
しかし、近隣の不動産業者などにヒアリングをしたところ、毎月12万円の賃料がとれるのは今回の計画地よりも駅に近い地域であり、今回の計画地近傍では、毎月11万円がせいぜいではないか、という話だった。また、当該地域では近年賃貸住宅がやや供給過剰気味で、築年数が経った賃貸住宅では、一度空室が生じると、半年程度埋まらない部屋も珍しくないようだ。
さらに図表2の収支計画では、毎年同じ賃料収入で計画されているが、建築後10年、20年と経つにつれ、やはり老朽化が進んでいくため、新築時、あるいは築年数が浅い時期と比較すると、どうしても入居者の人気が落ちるようになり、空室リスクは高まっていく。そのため、家賃設定を下げて入居を促すのは、ある意味仕方のないことである。
これらの点を踏まえると、図表2の収支計画における家賃収入の見積りは、見通しが甘いと言わざるを得ない。その点を踏まえて家賃収入の推移を見直し、図表3の<変更後>の通りに算定した。
まず、毎月の家賃は1年目から10年目までを1室11万円、以下10年ごとに20年目までを10万5000円、30年目までを10万円とした。また、空室損失については、10年目までを満室時家賃収入の5%に据え置くものの、11~20年目を10%、21~30年目を20%で見込むこととした。
■「一括借り上げ」利用で「もう安心」というわけではない
以上を踏まえて収入金額を変更したのが、図表2の<修正後>である。年間の家賃収入は、全期間通じての年間1368万円から、1~10年目が1254万円、11~20年目が1134万円、21~30年目が960万円となった。これらの金額は、想定の数字を少し変えるだけでも大きく変わってしまうので、家賃収入の見込みについては、できるだけ慎重に、かつ合理的に想定したい。
なお、空室リスクを回避する制度として、ハウスメーカーや建設会社から家賃が保証される一括借り上げの提案を受ける場合がある。これは、ハウスメーカーや建設会社と関連ある管理会社が所有者から賃貸アパートを一括で借り上げ、管理会社が入居者に各部屋を転貸するシステムである。
所有者のもとには空室が生じても毎月一定の借り上げ賃料が入ってくるが、借り上げ賃料は満室時に入居者から入る家賃の8~9割程度に設定されることが多く、満室であった場合の所有者の手取り収入は、一括借り上げを利用しない場合と比較するとだいぶ少なくなる。
確かに、毎月安定した収入を得られるのは魅力ではあるが、契約期間中に家賃の見直しが行われ、さらに賃料収入が下がるケースもありうるし、借り上げ会社の倒産リスクもある。一括借り上げの利用については、これらの点を十分に踏まえたうえで検討する必要がある。
■支出については借入金返済額、修繕費などに注意
当然、支出についてもよく確認する必要がある。その中でも、特に気をつけて金額を確認したいのが借入金返済額と大規模修繕工事の費用である。大規模修繕工事とは、集合住宅において5~10年単位ごとに行われる改装、修繕工事のことである。一般的には、外壁の補修工事、屋上やベランダの防水工事や給排水管の更新工事などが代表的だが、工事が建物全体に及び、また工事期間も比較的長いため、工事期間中、居住者の生活に影響を及ぼす場合も多い。
建設会社から提案された資金計画では、諸費用込の建設費が1億5000万円で、そのうち1億4000万円が銀行借入れの予定となっているが、図表2<修正前>の毎年の元利返済額621万円は、変動金利2.0%、返済期間30年、元利均等償還の返済条件で、当初の返済額を30年間ずっと適用させている。確かに、低金利の時代が長らく続いており、今後もまだしばらくは続きそうであるが、だからといって現状の金利が30年間続くかというと、それは考えにくく、30年間という長いタームで考えた場合は、多少上昇することを想定しておいた方がよい。
また、分譲マンションと同様に、賃貸マンションにおいても築後年数が経過していくにしたがって老朽化は進んでいくので、外壁や配管など、大規模修繕が必要になってくる。図表1においては、維持管理費という名目で毎年110万円が計上されているが、金額の程度から、大規模修繕の費用は含まれていないと推察される。よって、この場合も30年間という期間で考える場合は、大規模修繕費用も考慮に入れてプランの収支を判断すべきだ。
図表2<修正後>には見直し後の支出額で収支が示されている。元利返済額については、多少なりとも金利上昇を見込まざるを得ず、全期間3.5%の想定で返済額を算出している。また、大規模修繕費用に備えるための積立として、毎年100万円計上していくことにした。
■建築費、建物の構造、管理費も詳細に比較検討する
以上、収支計画に基づき、収入、支出それぞれについて建設会社提示のものの見直しを行ってきた。図表2の<修正前>と<修正後>を比較してみると、<修正前>ではローン返済後でも毎年400万円以上のキャッシュが手元に残っているのが、<修正後>では10年目まではキャッシュが手元に残るものの、11年目以降は家賃収入のみではローンの返済もできない状況が想定されている。
このように、建設会社などが提示した収支計画では、自己資金をほとんど投入しない状況でも家賃収入からローンが返済でき、しかも余剰が手元に残り、さらに相続税の評価額も下げられるという「夢のような計画」が提示される場合がある。しかし、それが本当に実現可能な数字なのか、慎重に分析する必要がある。
また、建物の構造をどうするかといった基本的なところも、しっかりと押さえておきたい。今回のプランは鉄筋コンクリート造の建物を建築する計画だが、それは建設会社から提案を受けたプランだからとも言える。これがハウスメーカーからの提案であればプレハブ造の建物であったかもしれない。一般的には、プレハブ造の建物のほうが低コストで建築できる場合が多いようだ。家賃収入もプレハブ造の建物のほうが低くなりがちではあるが、建築費用の削減効果のほうが大きい場合は、賃貸マンション経営的にはプレハブ造の建物を建築する方が優れた選択となる。
さらに、賃貸マンション稼働後の管理業務についても同様のことが言える。管理業務とは、賃貸建物経営を行うにあたっての管理業務全般のこと。主に、賃借人の募集や契約・更新などの手続き、家賃の集金や家賃を滞納している賃借人との交渉などの賃貸管理業務と、エントランスや廊下などの共用部分の清掃、エレベータの保守点検などの建物管理業務の二つに分けられる。
家賃収納や建物清掃等のこれら業務をオーナー自身で行う場合は別だが、オーナーによってはこれらの業務も専門の業者に委託する。この場合も、業者の数だけ見積書があると言っても過言ではなく、かかる費用もそれぞれだ。
これら建物建設と管理業務については、複数の業者から見積書を取り寄せ、内容と費用について精査し、賃貸住宅経営における損益、収支に与える影響を熟慮したうえで、業者を選択したい。
■賃貸マンション経営も事業経営である
以上、青山さんが提案を受けた収支計画について見てきたが、青山さんはとりあえず、今回の建設会社から提案を受けたプランには断りを入れ、もう一度他の業者、メーカーから広くプランを取り寄せることにした。それぞれの収支計画などを比較しながら、それらの実現性について、長い時間をかけてじっくりと検討するつもりである。
当たり前のことだが、賃貸マンションを建てて、家賃収入を受け取り、経費を支払い、借入金の返済を続けていく、ということはまさに「賃貸マンション事業経営」である。「相続税評価額が低くなるから」などといった視点のみから入ると、どうしても経営していく、という意識が薄くなりがちになるものだ。
賃貸マンションの建設を検討する際には、常に事業経営の意識を持って検討を進めることが、先々の「経営者感覚」を養っていく上でも重要であろう。
(日経BP社Webより引用)
図表1 賃貸マンション建設による評価引き下げ
図表2 毎年の収支計画・図表3 毎年の家賃収支の計算