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2014年04月26日

賃貸マンションの収支は建築規制にどう左右されるか

有効活用の観点から、あるいは相続対策の観点から、所有している更地に賃貸マンションや店舗・事務所ビルを建設することは一般的に行われている。しかし、土地があれば、物理的に可能な範囲でどのような大きさの建物でも建てられ、また建設した建物をどのような用途にも利用できる、というわけではない。


■親から相続した土地の有効活用を考える

都道府県(複数の都道府県にまたがる場合は国土交通大臣)が都市計画法に基づいて指定する都市計画区域内および準都市計画区域内の地域では、建築基準法に基づいて、建築物の用途、建ぺい率、容積率などに制限が加えられる。

この制限により、希望する用途での有効活用ができなくなる可能性もあり、また建ぺい率、容積率の制限によっては、土地所有者が期待する規模の収益を獲得できなくなる可能性もある。土地の有効活用を検討するは、まずは建築基準法に基づき建築可能な建物の用途と規模を把握することが大切である。

中本さん(仮名)は、親から相続し、ずっと月極駐車場として使っていた土地について、今後の有効活用を考えている。その土地は街中にあるため、賃貸マンションや事務所ビルの建設を考えていたが、最近になって、地域ごとに建築可能な建物の大きさが細かく決められていることを知った。また、建物の用途についても同様に制限があることも知り、有効活用によって期待する収益を獲得できるのか少し心配になっている。

今回は、中本さんの事例をもとに、建物の大きさや用途の制限およびその収益に与える影響について考えていきたい。


■用途地域ごとに定められる用途の制限

図表1は、中本さんが有効活用を検討している土地の概要である。最寄り駅にも近く、また、近くには幹線道路も通っているため、中本さんは有効活用するにあたって、賃貸マンションでも事務所ビルでも採算的に大丈夫だろう、と考えていた。

しかし、調べていくうちに、中本さんの土地の地域にも図表1のように用途地域や建ぺい率、容積率が定められており、これらによって建築する建物の用途や大きさが制限されることがわかってきた。

地域地区とは、都市計画法で定められた住宅地、商業地、工業地などの土地利用上のゾーニングのことであり、市街化区域と市街化調整区域の区分の制度とともに土地の計画的な利用を図るために定められており、用途地域と補助的地域地区の二つに分けられる。すなわち、都市計画で定められる地域地区の一つが用途地域である。

建築基準法では、全部で12ある各用途地域内での建築物の用途について制限している(図表2)。第一種低層住居専用地域、第二種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域については「○○以外の建築物は建築してはならない」という規制方法で、その他の9の用途地域は「○○の建築物は建築してはならない」という規制方法である。ただし、特定行政庁の許可があれば、図表2の用途制限にかかわらず建築物を建築することができる。

特定行政庁とは、建築主事を置く地方公共団体、およびその長のことであり、建築の確認申請、違反建築物に対する是正命令等の建築行政全般を司る行政機関である。建築主事の設置は、都道府県と政令で指定する人口25万人以上の市となっており、その他の市および町村は知事との協議によっておくことができる。

中本さんの所有地の用途地域は第一種中高層住居専用地域で、図表2によると、残念ながら事務所(ビル)を建築することができない。そのため、中本さんは、土地の有効活用の方法として賃貸マンションの建設を中心に考えることにした。


■建ぺい率の最高限度はどのように定められているか

建ぺい率や容積率の制限は、建築物の大きさに関する制限であり、高さの制限や位置の制限と並んで「形態規制」と呼ばれ、都市計画区域内における建築物の制限の中で最も中心的な役割を担うものである。

建ぺい率は、建築物の建築面積の敷地面積に対する割合のことをいう。建築面積とは、建築物(地階で地盤面上1メートル以下にある部分を除く)の外壁またはこれに代わる柱の中心線で囲まれた部分の水平投影面積であり、多くの建物では建物の1階部分の面積と考えられる。

建ぺい率は用途地域ごとに最高限度が定められている(図表3)。建築物の敷地が建ぺい率の異なる複数の地域にわたる場合は、それぞれの地域の建ぺい率の最高限度の数値に、その地域に係る面積の敷地面積全体に占める割合を乗じて得たものの合計が最高限度となる。

なお、以下の条件を満たす場合には、建ぺい率が緩和される。

(1)建ぺい率の限度が8/10とされている地域以外で、かつ、防火地域内にある耐火建築物は、図表3の数値に1/10を加えた数値が最高限度となる
(2)街区の角にある敷地またはこれに準ずる敷地で、特定行政庁が指定するものの内にある建築物は、図表3の数値に1/10を加えた数値が最高限度となる
(3)1および2の両方の条件を満たすものは、図表3の数値に2/10を加えた数値が最高限度となる
 また、以下のいずれかに該当する建築物については、建ぺい率の限度は適用されない。

(1)建ぺい率の限度が8/10とされている地域内にあり、かつ防火地域内にある耐火建築物
(2)巡査派出所、公衆便所、公共用歩廊その他これらに類するもの
(3)公園、広場、道路、川その他これらに類するものの内にある建築物で、安全上、防火上および衛生上支障がないもの


■容積率を考えるときのポイントは何か

建築面積の敷地面積に対する割合である建ぺい率に対し、容積率は建築物の延べ面積の敷地面積に対する割合のことをいう。

延べ面積とは、建築物の各階の「床面積」の合計のことである。ただし、容積率を算出する際には、(1)自動車車庫・自転車置場に供する部分の床面積(床面積の合計の5分の1まで)、(2)建築物の地階(その天井が地盤面からの高さ1メートル以下にあるものに限る)の住宅の用途に供する部分の床面積(住宅の用途に供する床面積の合計の3分の1まで)、(3)共同住宅の共用廊下・共用階段・エントランスの部分の床面積(限度なし)――については延べ面積から「除外」できる扱いとなっている。

用途地域ごとに容積率の最高限度が定められている(図表4)が、建築物の敷地が容積率の異なる複数の地域にわたる場合は、それぞれの地域の容積率の最高限度の数値に、その地域にかかる面積の敷地面積全体に占める割合を乗じて得たものの合計が最高限度となる。

ただし、容積率の場合は環境および防災などの観点から、幅員の狭い道路では図4のうち都市計画で指定された容積率をさらに制限することがある。その結果、容積率の最高限度は、「都市計画において、用途地域とともに定める図表4の数値以下であり、かつ建築物の前面道路の幅員が12メートル未満である場合においては、その前面道路の幅員のメートルの数値に一定率を乗じた数値以下でなければならない」となる(前面道路の幅員によって、一定の条件の下での緩和あり)。

この場合の一定率は、第一種低層住居専用地域から準住居地域までの住居系7地域では4/10(ただし、第一種、第二種低層住居専用地域以外の地域のうち、特定行政庁が都道府県都市計画審議会の議を経て指定する区域内または高層住居誘導地区では6/10)、それ以外の5地域では6/10(ただし、特定行政庁が都道府県都市計画審議会の議を経て指定する区域内では4/10または8/10)と定められている。

ちなみに、高層住宅誘導地区とは、補助的用途地区の一つで、住居と住居以外の用途とを適正に配分し、利便性の高い高層住宅の建設を誘導するため、一定の容積率が定められている一定の用途地域内において、建築物の容積率の最高限度、建築物の建ぺい率の最高限度および建築物の敷地面積の最低限度を都市計画で定める地区である。


■中本さんの土地に建てられる建物の限度は?

中本さんの土地の建ぺい率および容積率の制限はどのようになるかというと、図表1より、地域の建ぺい率の最高限度は60%であるが、中本さんの土地は角地であり、特定行政庁の指定を受けていることから、中本さんの土地の建ぺい率の最高限度は70%であった。

また、容積率については、地域の最高限度は300%であるが、中本さんの土地では前面道路幅員6メートルであり、住居系地域の一定率4/10を乗じると240%となるため、240%が中本さんの土地の容積率の最高限度となる。

中本さんの土地は1000平方メートルである。「建ぺい率の最高限度70%、容積率の最高限度240%」とすると、中本さんの土地に建てる建物の建築面積の限度は700平方メートル、延べ面積の限度は2400平方メートルとなる。


■用途および建ぺい率、容積率によって変わる収益性

用途地域による用途制限、また建ぺい率、容積率の最高限度によって、建築できる建物の用途、全体の床面積、あるいはフロアの広さなどが決まってくるため、これらの制限は不動産から得られる収益の多寡に大きな影響を与える。この点から、中本さんの土地についてもう少し詳しくみていくことにしたい。

中本さんは、用途地域による用途規制および建ぺい率、容積率の最高限度に従い、「建築面積600平方メートル、4階建、延べ面積2400平方メートルの賃貸マンション」を建設して、この土地の有効活用を図ることにした。

図表5の「現計画」は、その際の収支概略である。年間収入額5760万円、年間支出額1440万円円で、年間の純収益4320万円を予定している。


そして、図表5の「容積率150%の場合」は、実際には240%の容積率が150%であると仮定した場合の収支および純収益である。用途は同じ賃貸マンションであっても、賃貸可能面積が大きく減少するため、それに伴い収入も減少。純収益に至っては、実際の6割程度の水準となってしまう。同じ広さの土地の中にどれだけの広さの「床」を確保できるかで、土地の収益性は大きく違ってくるのである。

また、「用途地域が商業地域の場合」は、用途地域が商業地域で事務所ビルの建築が可能であり、実際に建築すると仮定した場合の収支および純収益である。1階が店舗、2階より上を事務所として使用することにより、家賃の平均単価が上がり、「現計画」と同規模の建物でも収入が増加し、それに伴って純収益も増加している。家賃単価の高い用途としての使用が可能かどうかも、土地の収益性を大きく左右することになる。


■計画当初から十分な認識を

このように、土地があるからといってどのような用途・大きさの建物でも建築できるわけではなく、各地方公共団体によって決定される都市計画、そしてその都市計画を実現するための建築基準法によって制限される。

所有地の有効活用の検討では、具体的な計画が進んでいくにつれて現実に直面することになるが、主体的に計画を進めていくためにも、早い段階から建築できる建物の用途・規模等を把握し、建築可能な用途・規模によって、どのくらいの収支が見込まれるのかについて、大まかであっても早い段階から認識しておきたい。

(日経BP社Webより引用)

図表1~5
図表1~5

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