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2015年01月08日
ファイナンシャルプランナー(FP)の北野琴奈氏は、「実践型FP」として自ら不動産投資を手がけている。約100室を保有するという北野氏に、金融商品とは性質の異なる不動産投資のやりがいと苦労を聞いた。
FPの資格を取ったのは自分のキャリアのためではないんです。
きっかけは、結婚して、お金のことを全然知らない自分に気づいたことです。
家計を管理しようにも、保険証券の見方ひとつ分からない。
いろいろ調べる中でFPという資格を知り、お金のことを体系的に学べそうだと思って勉強を始めました。それまで給与明細なんて口座に振り込まれている金額くらいしか見ていませんでしたが、税金や社会保険料の仕組みも分かって新鮮でした。
■利回りの重みを知り衝撃
そのときに知ったのが「72の法則」です。72を年利で割ると、複利運用で元本が2倍になるまでの期間がだいたい分かるというものです。バブル期の8%なら10年弱ですが、当時の定期預金の金利は0.06%でしたから何と1200年。衝撃でした。利回りの概念を初めて理解して、これは資産運用を始めた方がいいなと思いました。
最初に買った上場投資信託(ETF)はいきなり値下がりしてしまいましたが、含み損を抱えたまましばらく放っておいたら、1年ほどで株価が戻って収益もプラスになりました。
投資ってこういうふうにお金が増えていくんだなあと思って、今度は短期取引にも挑戦してみました。
ところがうまくいったのは最初だけ。
株価が急落するともうけが吹き飛んでしまいました。
それ以来、短期の売買はしないようにしています。
不動産投資を始めたのは、ロバート・キヨサキ氏の「金持ち父さん 貧乏父さん」という本の影響です。
いまは100室くらい保有していますが、10年やってようやく全体像が見えてきたかなという感じですね。
不動産の場合、毎月入ってくる家賃と、2年や5年という単位で出ていく修繕費に時間差があります。
そこが株の配当とは違うところで、ある程度時間をかけないとなかなかお金の動きのイメージが湧きません。
リーマン・ショックみたいなことが起きても家賃が急に途絶えることはないので、収支は金融商品よりも安定しています。その反面、物件価格自体の動きもゆるやかで、好景気になっても株価みたいに急には上がりません。
そういう意味では、金融商品と不動産を両方とも持っていると景気の変動に強いですよね。
不動産投資の魅力は、同じ物件でも自分の腕次第で収益が大きく変わるところです。
お金の使い方でいえば、家賃を上げるために設備投資をするのか、空室をつくらないように入居者募集費用を多くかけるのか、そしてそれがうまくいくのかどうかで結果はずいぶん違ってきます。
ローンの返し方にしても、2棟買って両方の家賃収入で片方のローンを一気に返し、そうしたら次の1棟を買うという人もいます。工夫次第でいろんなやり方があるんです。
■一番大事なのは自分の採算ライン
私が物件選びで一番重視するのは、駅が近いとか設備が新しいということではありません。
家賃収入でローンが返せなくなるという最悪の事態が起こったときに、対処できるかどうかという視点です。
物件を売れば返せるのか、それで足りないならいくら補填が必要か、購入を決める前に綿密にシミュレーションをします。不足分が補填できる金額を超えていれば、いくらいい物件でも手は出しません。
こんなふうに、不動産投資は、これだと思った物件を自分なりの採算ラインで買えるかどうかに尽きると思います。悩ましいのは、金融機関がお金を貸してくれるときにはみんなが高値でも買おうとするのでいい物件が残らず、逆になかなかお金を貸してもらえない時期にはいい物件があっても買えないということです。
最終的な投資の成否は、売ってしまうか、家賃収入でローンを返し終わるまで分かりません。
いくら家賃収入がよくても、売るときに損が出たら失敗なんです。
不動産は長く持っていると古くなっていきます。10年、20年たてば大規模な修繕が必要です。
費用をかけて持ち続けるか、もう少し新しい物件に買い替えるか、市況を見ながら決断しないといけません。
数年前まで、日本の不動産投資は家賃収入を中心に考えるのが鉄則でしたが、市況がよくなってすっかり状況が変わりました。
価格が低いときに買った人は利益を確定するために売りに動いていますし、将来の売買益を狙っていま買う人もたくさんいます。
スタイルは本当に人それぞれです。
新築か中古か、都心か地方か、1部屋単位か1棟か……。
ボロボロの物件を格安で買って徹底的に手を入れる人や、土地から買って自分で建ててしまう人もいます。
ちょっと調べたくらいだと何をやったらいいかかえって分からなくなるかもしれないので、何が自分に合っているのか、見極める必要があります。
■時間・労力・お金のバランス考える
そのためには、時間・労力・お金のどれをかけられるのかをよく考えることです。
時間や労力をたっぷりかけられるなら、「ボロ物件」で高利回りを実現するのも選択肢です。
それは無理だけどお金はある程度出せるという人は、収益が落ちても管理会社さんに委託した方がいいでしょう。中には「サラリーマン大家」なのにボロ物件投資で成功している人もいますが、相当な気合と好きな気持ちがないと難しいと思います。
計算だけで終わらず、人が絡んでいろんなことが起こるのも不動産の特徴です。
入居者さんからのクレームや、設備が壊れた、カギをなくしたという問い合わせは日常茶飯事です。窓口は管理会社さんにお任せしていますが、どう対応するかは自分でそのつど決めないといけません。
これは結構時間を取られます。以前、海外に持っている物件の入居者さんから「じゅうたん敷きの部屋を全面フローリングにしたい。費用はオーナーが半分くらい持ってくれますか」と聞かれたときにはびっくりしました(笑)。どうしてそれが必要なのか合理的に説明してくださいとお願いしたら引き下がってくれましたが……。
空室を作らないこつも、決め手は人だと思います。設備をきれいにするだけでなく、仲介業者さんがある程度裁量を持って動けるようにすることでうまくいくこともあります。
信頼している業者さんには、1000円や2000円の家賃交渉ならその場で決めていいですよと伝えています。
そういうことが面倒だという人は不動産投資信託(REIT)の方が楽かもしれませんね。
手間のかかるやりとりをせず、小口で不動産に投資できます。
REITはオフィスや住居、商業施設、物流といった分野から、ヘルスケアや病院、2020年の東京オリンピックを見据えてホテルなどへと枠組みが広がってきていて、関心を持つ人が増えていくとみています。
不動産に限りませんが、投資は自分を成長させてくれるものです。
成功しても失敗しても学ぶことがあるので、次はどうすべきか考えますよね。特に自分でお金をかけてやると、ひとごとじゃなくて自分に引き寄せて考えられるようになります。
これってどうなっているんだろうと疑問に思えばいろいろ調べますし、経済ニュースにも関心を持つはずです。始めは点だったものが徐々に線、そして立体になっていって、いろんな視点を持つことにつながります。
投資をきっかけに、それまで自分が知らなかった世界が開けると思いますよ。
(日本経済新聞Webより引用)