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2015年03月31日

不動産市場を知るための調査・統計とは?

一棟売りマンションなどへの不動産投資はもちろんのこと、マイホームの新規購入や買い換えをする際にも、まずは不動産の市場動向をしっかりと把握しておきたい。

売買市場、賃貸市場など一般的な不動産市況の動向は私たちが行う個々の不動産取引にも影響を与えるため、一般的な売買取引動向、賃貸借契約動向を把握したうえで不動産の売買取引、賃貸借契約の交渉に臨みたい。そうすれば、価格や賃料の水準や動向、需給動向の背景をふまえて、自身の取引価格や契約賃料の判断をすることができるからだ。


■土地価格、不動産投資の想定利回り、賃貸動向、売買動向

まずは不動産の市場動向を把握するため、新聞などに掲載されている不動産市況関連の調査や統計を確認し、自分なりに分析することをぜひとも行っていただきたい。もちろん、細かい分析が必要なわけではなく、「どういう状況なのか」をおおまかに把握するだけでもよい。

その次のステップとして、売買や賃貸などの不動産市況を把握するのに有効な調査や統計にはどのようなものがあり、どのように分析していけば市況の把握に活用できるだろうか。

不動産市況に関連する調査や統計には、(1)土地の価格動向に関するもの、(2)不動産投資の想定利回り等に関するもの、(3)オフィスビルの家賃、空室率など賃貸動向に関するもの、(4)分譲マンションの販売価格、契約率など売買動向に関するもの――などがある。これらの多くはインターネット上で簡単に取得することができ、しかも時系列で追っていくことにより、不動産の価格や売買、賃貸の動向を把握できる。

以下では、不動産市況に関連する調査や統計を具体的に紹介するとともに、それらを意思決定する際にどのように生かしていけばよいか、見ていくことにしたい。


■直近の地価動向を把握できる「地価LOOKレポート」

最新の地価動向を把握するための統計から見ていくこととしたい。「主要都市の高度利用地地価動向報告(地価LOOKレポート)」は、国土交通省によって実施されている調査である。主要都市の地価動向を先行的に表しやすい高度利用地等の地区について、四半期ごとに地価の動きを把握することにより先行的な地価動向を明らかにするものだ。

調査対象は三大都市圏、地方中心都市等において特に地価動向を把握する必要性の高い150地区。これら150地区について、不動産鑑定士である鑑定評価員が調査対象地区の不動産市場の動向に関する情報を収集するとともに、不動産鑑定評価に準じた方法によって地価動向を把握し、その結果を国交省が集約している。

ただし、地価LOOKレポートでは、各地区について地価変動の方向およびその程度が示されるが、地価の実額は調査されない。地価変動の方向およびその程度は、上昇(3%以上6%未満)、上昇(0%超3%未満)、横ばい(0%)、下落(0%超3%未満)、といったように3%刻みで示されている。実額を把握するためには、地価の実額を調査している地価公示、都道府県地価調査、相続税路線価などの価格から、地価LOOKレポートで発表された地価変動の方向およびその程度を用いて直近時点における実額を推計する必要がある。

地価LOOKレポートは、四半期ごとのおおよその地価変動率を把握できることから、将来の地価がどのように変動するのかの予測に大いに役立てることができる。そして、地価変動の予測は、不動産の売買価格決定に際して大きな影響を及ぼすことから、当事者として不動産の売買価格交渉に臨む際には、地価LOOKレポートをもとにして将来価格の変動を予測し、交渉価格の検討を行っていただきたい。


■収益不動産の価格推計に有用な「不動産投資家調査」

もう一つ、不動産の価格に影響を及ぼす数値の調査だが、こちらは主に収益不動産の価格に関連してくる調査である。一般財団法人日本不動産研究所の「不動産投資家調査」は、半年に一度(4月1日、10月1日)、不動産デベロッパーや生命保険会社など不動産投資家に、投資不動産の利回りの動向などについてアンケート調査を行ってまとめている。

調査の具体的な内容は、(1)アンケート回答者の最近の不動産投資の動向、(2)立地、築年数、建物規模など一定の条件を想定したオフィスビルに投資する場合の想定の投資期間、利回り水準、借入割合および借入金利、(3)各地区のタイプ別不動産(オフィスビル、賃貸住宅、商業店舗、物流施設、ビジネスホテル)に投資する際の利回り水準(期待利回り、取引利回り)および賃料水準である。 

ここで、期待利回りと取引利回りの違いについて説明しておく。不動産投資家調査では、期待利回りは「投資価値の判断(計算)に使われる還元利回りを指す。通常、初年度の純収益(NOI)を期待利回りで割ったものが投資価値になる」と定義される。一方、取引利回りは「市場での還元利回り。単年度の純収益(NOI)を市場価格で割ったものを指す」と定義されている。純収益(NOI)は、減価償却前、税引き前の純収益を指し、不動産より得られる有効総収入から総費用を控除したものである。

期待利回りは「各投資家が期待する採算性に基づく利回り」であるのに対し、取引利回りは「投資家が実際の市場を観察して想定する利回り」であり、期待利回りが「各投資家の主観的な利回り」、取引利回りが「市場全体の客観的な利回り」と考えてよさそうである。

以上のように、不動産投資家調査は、各地区の投資用不動産に対する利回り水準を容易に把握できることから、収支状況が把握できる投資不動産の取引価格推定などに活用したい。ただし、調査結果として掲載されている利回り水準は、Aクラスビルなどいずれのタイプにおいても優良な品質を有する不動産向けの利回りである。築年数が経過している、建物規模が小さいなど、条件が悪くなると一般的には利回りは上昇する。個々の物件に調査結果を活用する際には、こういった点にも注意したい。


■景気動向の把握に有用な「最新オフィスビル市況・調査月報」

これまでに説明した2つの調査は不動産価格につながる内容だが、次の調査は空室率(入居率)や賃料(家賃)など賃貸借に関連する内容になっている。「最新オフィスビル市況・調査月報」(図表3)は、三鬼商事株式会社が行っている調査で、全国7地域のテナント入居状況、賃貸条件の動向、新築・既存ビル別の賃貸条件の格差、ビルの供給状況を毎月集計分析している。

発表されている調査結果は、新築ビル、既存ビルについての平均空室率と平均賃料、地区ごとの平均空室率と平均賃料で比較的シンプルだが、月末時点の結果が翌月前半には発表されることから非常に速報性が高い。また、調査対象となるビルは、東京の場合、東京ビジネス地区(千代田、中央、港、新宿、渋谷の都心5区)にある「基準階」が100坪以上の主要貸事務所ビルとなっている。ただし、調査対象ビルの規模等については、地域ごとにやや異なっている。

ここでいう「基準階」とは、中高層の建物において、最も多く繰り返される代表的な平面を持つ階のことであり、基準階の面積を基準階面積という。例えば10階建ての賃貸マンションの場合、1階はエントランスなどがあり、また、9階、10階は斜線制限などで床面積が小さくなっているとすると、2~8階が「最も多く繰り返される代表的な平面を持つ階」となるが、こういったケースでは、「2階」が基準階とされることが多い。また、超高層ビルにおいては低層・中層・高層階ごとに基準階が設けられることもある。

最新オフィスビル市況・調査月報から読み取れるのは、直接的にはオフィスビルの賃料や空室率などの需給動向である。当然、テナントとしてビルに入居を検討する際には賃料の比較検討などで活用することができる。もっとも、不動産投資家調査と同様、調査対象のビルが比較的大規模であることから、フロア当たりの床面積が50坪以下といった規模が小さいビルについては、結果がそのままは当てはまらない。

また、オフィスの需給動向は経済全体の景気動向が敏感に反映され、賃貸に限らない不動産市況全体の動向を反映することから、空室率が低下し、賃料が上昇するような結果であれば、不動産市況全体が好調であり、売買取引においても将来的な取引増加、価格上昇につながりやすい、ということを知ることができる。


■エンドユーザーの動向を把握できる「マンション市場動向」

最後に紹介するのは、エンドユーザーである個人の売買動向を把握するうえで重要な調査だ。「マンション市場動向」は、株式会社不動産経済研究所が行っている調査で、マンションの発売動向、販売動向について、首都圏、近畿圏において分譲業者などにアンケート調査を実施し、その結果を毎月集計している。また、首都圏については、別に建売住宅市場の動向についても調査されている。

発表されている調査結果は、マンションの発売戸数、平均価格、契約率(新規発売戸数に対する契約戸数の割合)などであるが、「最新オフィスビル市況・調査月報」と同様、ある月の調査結果が翌月の中頃には発表されるという点で速報性がある。首都圏と近畿圏の調査のみだが、その比較を行うだけでも、両地域の販売動向の違いを垣間見ることができる。

マンション販売について、一般的には当該調査で契約率が70%を超えると販売状況は好調である、といわれており、まずはパッと見てマンション市場の状況を把握することができる。また、都府県別(東京都においては都区部と都下でそれぞれ集計)の販売戸数、契約率、平均販売価格(戸当たり)、平均販売単価(平方メートル当たり)なども集計されているので、都府県ごとの販売傾向も確認できる。購入を検討している状況においては、これらの統計は売り主との交渉の過程において大いに活用できる。

さらにこんな活用の仕方もある。平均販売価格と平均販売単価を対比し、両方とも上昇していれば、一般的な価格上昇というとになる。しかし、平均販売価格が下落したにもかかわらず、平均販売単価が上昇しているような場合は、単価が高い都心の物件で、かつ、比較的小規模の物件の販売が多かった、ということが推定できるのだ。


■ネットの普及で手軽に入手可能に

以上、不動産市況を把握するうえで役に立つ4つの調査・統計を紹介したが、いずれの調査・統計もインターネットから取得することができる。

ほかにも不動産市況の把握に有用な多くの調査・統計がインタ-ネットから手軽に入手できるので、これらを活用して不動産市況への理解を深め、不動産の売買取引、あるいは賃貸借契約における意思決定に役立ててほしい。

(SAFETY JAPANより引用)

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