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2014年07月09日

賃貸住宅の役割強まる 未来展望

賃貸住宅の社会的役割が大きくなろうとしている。政府の少子化対策を受け子育て世帯に良質な育児環境を提供する、高齢者と若年世代などが交流できるコミュニティ型賃貸の供給、賃貸志向を強める一部若者層や増加が予想される外国人向けの良質な住環境提供などだ。当然、住宅本体や設備などの品質向上が求められるが、既に大手など一部メーカーは分譲と同格の仕様を採用し始めた。空室が400万戸以上あるといわれる賃貸市場だが〝持ち家を持つまでの仮住まい〟という概念から顧客を脱却させることができれば、賃貸の未来は明るい。


■子育て支援、地域再生など

政府は「骨太の方針」で、50年後に日本の人口1億人台を維持する目標を定めた。現在の推計では8600万人台まで減少する。このため今後は本格的な少子化対策に乗り出す。
子供を産み育ててくれる若者世代はその多くが賃貸住宅に住む。
つまり子供の数を増やすためには、保育所併設など子育てしやすい環境を整えた賃貸住宅を整備していく必要がある。政策として建設費補助や、家賃補助制度の導入が期待される。


■コミュニティ重視

少子化に加え、これからの社会を特徴付けるのが単身世帯の増加だ(グラフ参照)。既に全世帯の32%と最も多い。35年には37%まで増加する。

単身世帯の増加は地域コミュニティの破壊につながりかねない。地域は疲弊し、犯罪の増加、高齢者の孤独死など大きな社会不安を抱える可能性もある。対策としては、単身世帯間の交流が図れるコミュニティ型賃貸住宅を増やし、地域活性化の拠点としていくことが有効だ。

そこに、高齢者、若年世代などの単身世帯だけでなく、母子家庭、子育て世帯など多様な世帯を呼び込みコミュニティ型賃貸に循環的に居住するようになれば、地域が活性化していく。その点、永住志向が強く、住民が固定化しやすい分譲マンションよりもコミュニティ型賃貸は地域再生に貢献しやすい。


■「持ち家」との品質差縮小へ

遮音床、サッシなど
社会インフラとしての重要度が増す賃貸住宅に対しては、仕様など品質向上への期待が大きい。既に大手のハウスメーカーや賃貸住宅会社の間では、床の遮音性やサッシの断熱性、外壁の耐久性など、持ち家と同レベルの部材を採用するケースが増えている。

実は、そうした動きの背景にあるのが、20年までに予定されている新築住宅に対する省エネ基準の義務化である。賃貸・持ち家にかかわらず、すべての新築住宅は一定の省エネ性能を備えることが法律で義務付けられる。その省エネ性能は住宅本体だけでなく、家電など設備の省エネ性や太陽光発電など創エネ機能も含めて総合評価する。

その際、すべての新築住宅は一次エネルギー(別掲参照)に換算された統一基準で省エネ性が表示される。そうなれば住宅もクルマと同じように〝燃費〟が重要な選択基準となるだろう。


■省エネ法が背景

例えばある住宅の1m2当たりの年間エネルギー消費量が545MJ(メガジュール)に対し、他社物件がそれよりも多ければ、年間光熱費がいくら少なくて済むかが計算できる。つまり今後は価格だけでなく、〝燃費〟の差で物件を選ぶ人が増える。賃貸住宅も賃料だけでなく、光熱費の差が大きな選択基準になるだろう。

ということは賃貸住宅も住宅本体と設備を、持ち家と同レベルの品質に上げざるを得なくなるのではないか。「賃貸だから、持ち家よりも品質が劣るのは当たり前」という時代はもうじき終わる。

※一次エネルギーとは…化石燃料、原子力、水力、太陽光など自然から得られるエネルギーのこと。電気、灯油、都市ガスなどはこの一次エネルギーを変換・加工して得られるもので二次エネルギーという。

住宅では二次エネルギーが多く使用されており、その消費量はそれぞれ異なる単位(キロワット、リットル、MJ)で計量されている。これらをすべて、一次エネルギー消費量に換算することによって、どのメーカーの住宅でも消費する総エネルギー量を同一単位(MJやGJ)で表示することが可能となる。


■生まれる新たな需要

賃貸と持ち家との品質差が縮小すれば、いわゆる「賃貸派対持ち家派」との勢力図に大きな変化が生まれそうだ。 なぜなら今後、物件価格は上がるが所得は伸びないなどの理由から、若年世代の中には持ち家取得が困難になる層も出てくる。彼らは、無理なローンを組んでの住宅購入を諦める傾向が強まるだろう。アベノミクスの影響で金利が上昇するようなことにでもなればなおさらである。

また、最近は持ち家購入のための頭金を不動産投資の元手に回し、自らは賃貸に住みながら資産を増やそうとする若者も増えている。賃貸住宅の品質向上はどちらのタイプに対しても、そうした賃貸志向を促すことになる。

賃貸住宅市場には現在400万戸以上もの空室があるため、貸家の新設住宅着工がこれからも増加し続けると(5月で15カ月連続増加中)、将来的には供給過剰となり、空室が一段と増加するとの見方が一般的だ。

しかし、未来はそんなに単純だろうか。社会は常に変化しているのだから、常に新しい需要が生まれてくる。400万戸の空室でさえ、その大半はいずれ市場から姿を消す〝デッドストック〟と考えるなら、新たな需要に応える賃貸住宅の開発こそ商機をつかむ鍵となる。

(住宅新報Webより引用)

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